2008-01-01から1年間の記事一覧

連なる無色

意味をなすうつろな言葉よりも、意味をなさない言葉を選び、それよりも沈黙を好む。 遊ぶのは楽しいけれど、1円玉のように扱われる言葉は少し悲しい。 大切に使おうと思っても、慣れた耳には言葉は適正な重みを伴って届いてくれない。

目で愛でる

今まで魚を観賞する楽しみがわかりませんでしたが、ペットショップでその片鱗に触れました。ベタにカクレクマノミはかわいい。ニモ!ニモ!!と興奮気味に眺めていたら、近くで幼稚園児が同じ反応を示してました。ちっちゃいピンクの鯛(正式な名称は忘れた…

夜を往く燈

God Rest Ye Merry Gentlemen を聴くと、藍色の夜が広がる。 家の中はオーナメントで飾られている。 ツリーの下にはプレゼントが積まれ、 部屋の壁から壁へ渡した紐に、贈られたカードがかけられている。 ピアノの上のアドベントカレンダーは開ききって、 家…

そこに君が

銀幕の中に、昔好きだった人が現れる。 ほんの二、三分の、一方的な再会だ。 顔は毎年変わっていくように見えるけれど、 声はあまり変わらない。 自然なのか不自然なのかわからないしゃべり方も。 その姿を食い入るように見つめてから、 ようやく物語に集中…

舌に幸福を

おいしいものを食べられることじゃなくて、 おいしいと思って食べられることが嬉しい。 めんたい高菜をじゃくじゃく食べる。 納豆、わさび漬け、脂がのって皮がぱりっと焼けたしゃけ。 白いご飯をもしゃもしゃ食べる。 お出汁がじっくり染みこんだ大根といか…

絹糸の揺籃

秋の夜を吹きぬける風はその冷たさとは裏腹に落ち葉のあたたかなにおいがする。 襟元をかきあわせ、心持ち早足で、それでも呼吸を楽しみながら、団地の隙間を歩く。 もう我が家が見える、というところへ来て、眼の前に何やら物体が浮かんでいるのに気付いた…

[ 涙がちょちょ切れるぜバトン ]かっちゃまんさんより、バトンをいただきました。 長いこと気付かずにいてすみません。 では、さらりとゆきます。 1.最近流したのはいつ? またその理由は? 数日前に、心に一ミリの隙間もないほど余裕がなくなって。 2.今ま…

ワンシーン

夜の電車で本を読む。 と、文庫本の端を何かがよぎった。 目線をずらすと、何かの植物の綿毛がふうわふうわと漂っている。 どこから迷い込んだものか、ゆっくりと空気に乗り、隣で眠るサラリーマンの膝に舞い降りた。 サラリーマンはそんなものにはもちろん…

つめたさは

長く人の住んでいなかった家は、とても冷たくしんとしている。 化石のようにじっと沈黙している。 光を入れ、磨き、生活のにおいがする家具が運び込まれ、 寝起きし、食事し、生活がぐるぐる回り始め、 気が付くと、家は光と温度を具えるようになっている。 …

ただの記憶

私は車に乗っている。 父が運転していて、母が助手席に座り、おそらく私は後部座席の真ん中に座っている。 8歳か9歳か10歳くらいで、車内で過す時間にすっかり倦んでいる。 もう時間は午後の三時か四時で、まだ目的地に辿りつかない。 やがて、車は大きな橋…

震える粒子

光の中で声をあげる人を見ていた。 音が粒になって、体の表面を打つ。粒になって、体の中をかけめぐる。 酸を浴びているような、血がビールになったような、強い刺激で全身が痺れた。 その圧倒的な幸福感を他に知らない。 空など見えない閉塞された空間で、…

ともすれば

自分のことを4番手くらいの人間だと思っている。 点数で言ったら60点。天気でいったら曇り。 カビが生えるような湿度。 いてもいなくても同じ。積極的に求められることはない。 とかね。 それを思えば思うほど、周囲も本当に私をそう扱ってくる。 でもこ…

春深き午後

少し香ばしいような、日向のにおいがする春の日は、小学校を思い出す。 風邪を引いて、家で寝ながら小学校のチャイムを遠くに聞いて、 教室の喧騒を思い浮かべるのに似ている。 すすけたグラウンド、濁った青の空、桜の花びらが散る道、上着のなくなったから…

雪崩落ちる

ユキヤナギが満開になると、かくも迫力を伴うものか。 その咲き誇る様は、さながら滝が凍りついたようだった。 ひとつひとつの花を見れば実に可憐で、陽に透ければまるで花嫁のように朗らかであるのに、 集合して渾然となった姿は雄雄しさに満ちている。 カ…

巡り呼ぶ声

沈丁花に、呼ばれた。 姿を探してキョロキョロと辺りを見回すと、 通り過ぎてきたマンションの入り口に、小さな繁みがあった。 近づくと、小さな花はすでに満開だった。地味な佇まいながら、 咲き誇ると小さな鞠さながらの体をしていて、愛らしいといえなく…

指で梳く髪

髪を切る。 整えてパーマをかけ直しただけなのに、どうしてこんなにも軽いのだろう。 ほんの数グラムの負荷が減っただけで、重力から少し、解放された気持ちになる。 いつもと違う香りのする髪は、まるでそこだけよそゆきになったようで。 自分のものなのに…