2009-01-01から1年間の記事一覧

逞しく潔く

ほころび始めているのは知っていた。 蕾がわずかにゆるめば、そのすきまからたちまち香りをたちのぼらせるから。 数日前に見た金木犀は、まだ淡い緑色をしていた。 昨日、大規模な台風が通り過ぎ、葉をひきちぎられんばかりになぶられる木々を見た。 その吹…

眠り姫或は

昨日、はてなハイクで知り合った方々にお会いした。 ダイアリーでの告知を受けて、いつものごとく軽い酸欠状態で参加させていただいた。 いい加減に慣れればいいのに、この心臓め。 予報通りの晴天で、汗ばみながらも爽やかな陽気だった。 初夏の気配に、迫…

モノトーン

窓を開けて降る雨の音を聴く。 外は明度が低く、部屋の灯りがやけにこうこうとして見える。 くすんだ色合いの空を眺めていると心が落ち着く。 私の本来の気質や性分に、雨や雲の佇まいがしっくりと馴染むのだ。 このじめじめとした、うっとうしいもの! 雨音…

蕗の葉味噌

蕗の葉と茎の境目に、ざくりと刃を入れる。 切り分けられた茎の方はラップにくるんで冷蔵庫へ。今回の主役は葉なので、お休みしていてもらう。 葉は丁寧に汚れを洗い落とし、ボウルに溜めた水に浸け、充分に水を吸って広がるのを待つ。 しゃきっと生き返った…

命あるもの

ドウダンツツジが新芽の先から蕾をのぞかせていた。 「新芽」と言うのすらためらわれるほど淡く柔らかいさみどりに、おそるおそる触れてみた。 小指の先ほどの蕾は、それでもはっきりとわかるほど肌理細かく、その身の内にひたひたと水分を蓄えていた。 私の…

赤い水筒に

かじかむ指先をぎゅっとコップに押し付けながら、公園のベンチで紅茶を飲んだ。 家で飲む時は何も加えず、あっさりと飲む。 外にはミルクとお砂糖を入れたものを持っていく。 理由は単純で、その方が赤い水筒に似合っているから。 明るく浅はかな赤に、たっ…

宇宙の中心

ほの暗い地下に宇宙が出現した。 三種の楽器と声と無数の機械が、渾然一体となって空気を歪める。 芯から操られた人々の体が、熱に浮かされたように揺れていた。 まばゆい光が空気を貫く。 常ならば目を閉じて音に浸るところを、踊る光があまりにも美しくて…

啓蟄はまだ

春一番が強引に冬を押しやった。 風のにおいとぽかぽか陽気に酔っ払ったみたいな気分で町を歩いた。 土も空気もあたたまれば、虫も人も動きたくなるのは同じなのかもしれない。 冷たくちぢこまった四肢をおもいきり伸ばせ。 若者たちも親子連れもフォークシ…

素朴であれ

また突然食べたくなったので、PRも兼ねて記しておくことにする。 「もすこ」、というお菓子がある。 又の名を「もしこ」という宮崎県は都城の郷土菓子で、説明には落雁と書かれている。 初代DSくらいの大きさの白くて平べったい長方形で、私は棒状に切り…

つづる徒然

私が小さい頃に文字を選んだのは、他に手段がなかったからだ。 ずいぶん早い段階で、私は他の手立てを切り捨てた。 周りに絵が上手な子なんて、五万といた。 私の容姿はテレビに出られるようなものではとてもなく、 歌うことをあきらめた。 文字だけが残った…

ピカピカの

雲のない夜に星がまばらに散っている。 小さなてんてんが一つずつ、きちんと光っている。 月は磨かれたような透明感で、冷たい夜をくまなく照らしている。 温度のない光を顔に受け止めながら、畏れ多い気がして目を閉じる。 胸をしめつけられるような、早朝…