無
私が小さい頃に文字を選んだのは、他に手段がなかったからだ。 ずいぶん早い段階で、私は他の手立てを切り捨てた。 周りに絵が上手な子なんて、五万といた。 私の容姿はテレビに出られるようなものではとてもなく、 歌うことをあきらめた。 文字だけが残った…
意味をなすうつろな言葉よりも、意味をなさない言葉を選び、それよりも沈黙を好む。 遊ぶのは楽しいけれど、1円玉のように扱われる言葉は少し悲しい。 大切に使おうと思っても、慣れた耳には言葉は適正な重みを伴って届いてくれない。
自分のことを4番手くらいの人間だと思っている。 点数で言ったら60点。天気でいったら曇り。 カビが生えるような湿度。 いてもいなくても同じ。積極的に求められることはない。 とかね。 それを思えば思うほど、周囲も本当に私をそう扱ってくる。 でもこ…
きっと写真に残せば、一緒の思い出に変わる。 共に懐かしさに目を細めることができる。 でもその思い出は、共通しているようでしていない。 私の目線の思い出と、あなたの目線の思い出は、きっと部分的にしか重ならない。 五感にしみこますのは、一人の思い…
息もつけぬほどの暗黒をのぞく。 ここが、真の、暗闇というものか。 膝を抱えて、居心地のよい姿勢を探す。 小さく固まって、瞬きもせず、暗闇をみつめる。 誰かの言葉を思い出す。 深淵をみつめるとき、深淵もまたおまえをみつめているのだ。 とか、そんな…