2007-01-01から1年間の記事一覧

共有しない

きっと写真に残せば、一緒の思い出に変わる。 共に懐かしさに目を細めることができる。 でもその思い出は、共通しているようでしていない。 私の目線の思い出と、あなたの目線の思い出は、きっと部分的にしか重ならない。 五感にしみこますのは、一人の思い…

際立つ輪郭

紅葉が青空を背景に、きりりと際立つ。 かさかさに乾いた落ち葉から、秋のにおいがする。 ベンチに腰をかけ本を読む少女の傍らには、熱いコーヒーの入った紙コップが置かれていた。 なんという、平和な秋の景色。 日差しは透明に降り注ぐ。 空気ははりつめ、…

五感はなし

息もつけぬほどの暗黒をのぞく。 ここが、真の、暗闇というものか。 膝を抱えて、居心地のよい姿勢を探す。 小さく固まって、瞬きもせず、暗闇をみつめる。 誰かの言葉を思い出す。 深淵をみつめるとき、深淵もまたおまえをみつめているのだ。 とか、そんな…

 味覚秋仕様

気温が高いときに、誰が好き好んで体の内側からあたたまるものを飲むものか。 さらりと乾いた冷気あってこそ、熱いスープが生きるのだ。 細かく切ったお野菜のだしとベーコンの塩味の効いたコンソメスープ、 ごろごろのじゃがいもに甘いにんじん、とろけるた…

 点滅する色

そのピンク色は懐かしすぎて目に染みた。 薄淡く、赤みを帯びた透明のピンク。前に座った女の子の髪の毛で、キラキラと輝いていた。 安っぽい色。子供の頃に、夜店で買った指輪の石の色。 耳に貼るぷっくりとした、三日月型のシールの色。 拾った、花の形を…

 一ミリ厚の

肌のうえを、薄衣のような秋の空気がすべってゆく。 もわっとした熱気のなかに、淡雪のようにすずしい空気がまぎれこんでいるのがわかる。 長月に入った途端の、この小癪さ。 月が少しずつ透き通り、空の濁りが晴れ、紺の色味が増してゆけば、 トンネルをく…

刻みこむ死

猫が死んだ。 もうだめかもしれないから帰ってきて、という姉の声を受話器越しに聞いた。 どうしてもどうしても帰りたくない理由があったのだけれど、 秤にかけた時、共に過ごした14年間を捨てることはできなかった。 帰らなかった時の後悔も、笑えるくら…

過去と言語

久しぶりに聴いた音は、表皮からぐんぐん吸い込まれていくようだった。 演奏する彼らの姿を目で追いたい気持ちよりも、音に浸りたい気持ちの方が大きくて、 何度かゆれながら、目を閉じた。 細胞が打ち震えた。 一番好きな曲は、本番では聴くことができなか…

風邪を引く

夜明け頃、蒸し暑さに目を覚ますと、喉の奥が焼けるように痛い。 外側からは確認しようのない気管支の形を、思わず脳裏に浮かべるほどに、 あかあかと腫れあがっているのが感じられる。 冷房の空気が部屋にいきわたり、眠るのに最適な温度になったところで、…