逞しく潔く

ほころび始めているのは知っていた。
蕾がわずかにゆるめば、そのすきまからたちまち香りをたちのぼらせるから。
数日前に見た金木犀は、まだ淡い緑色をしていた。
昨日、大規模な台風が通り過ぎ、葉をひきちぎられんばかりになぶられる木々を見た。
その吹きすさぶ風の中、かすかに金木犀の香りをつかまえた。
殴りかかってくるような風に似つかわしくない、甘くけだるげな香りだった。

すっかり散ってしまったものと思い込んでいたが、帰り道で見たのは、
鮮やかに色づいた花を枝にびっしりとつけた金木犀の姿だった。
小さな花はあの荒くれ者の風に負けず、しっかりと枝にしがみついていたのだ。
旬を過ぎれば一斉に、あっけないほどあっという間に散るというのに。
あの小さな蕾はきっと、香りをぎゅっとにぎりしめているのだ。
そして花びらが開ききると一気に蓄えていた香りを解き放ち、
すべて出し尽くしたら、潔く地に還るのだ。

今年の金木犀は、より力強く、甘美な香りに感じられた。