一ミリ厚の

肌のうえを、薄衣のような秋の空気がすべってゆく。
もわっとした熱気のなかに、淡雪のようにすずしい空気がまぎれこんでいるのがわかる。
長月に入った途端の、この小癪さ。
月が少しずつ透き通り、空の濁りが晴れ、紺の色味が増してゆけば、
トンネルをくぐりぬけるように、じき、冬にたどりつく。

気の早いはなしだ。

神様に、願い事はしない。祈ることはする。
あふれ出るものを、堰き止めないで流すこと。

涸れた蝉の死骸を横目に、私は私の悲しみと愚かさを弄びながら、
ほんの少し涙を出してみて、おどるように、帰る。
思い悩むゆとりを与えてくれる、秋の空気のなかを。