素朴であれ

また突然食べたくなったので、PRも兼ねて記しておくことにする。
 
「もすこ」、というお菓子がある。
又の名を「もしこ」という宮崎県は都城の郷土菓子で、説明には落雁と書かれている。
初代DSくらいの大きさの白くて平べったい長方形で、私は棒状に切り分けていただいている。
味は言われてみれば落雁のようだけれど、その食感はまさしく「もすもす」している。
噛めばややしっとりとした(ともすればしけっているとも言えそうな)歯ごたえ、
舌触りは肌理粗くざらりとしていて、「もすもす」と咀嚼しているうちに溶けていく。
米粉とお砂糖のシンプルな味と香りが、幼い頃の私をとりこにした。
いつ最後に食べたのかも覚えていないくらいだったのに、大人になった私に、その記憶はある日突然よみがえってきた。
その途端、どうしても食べたくてたまらなくなった。
母に詳細にわたり説明をしてみたら、親戚が送ってくれたものだったと判明した。
すぐさまお願いをして、一つ取り寄せた。
思い出と変わらぬ姿でそれはやってきた。
変わるべくもない。ただの白い、平べったい四角なのだ。
一口かじれば、懐かしい「もすもす」と、米粉の香りが口の中に広がった。
幼い私に刻まれた味の記憶は、なんといじましくも鮮やかだったことだろう。
思い出を美化しすぎていて、失望するのではないか、という思いは杞憂に終わった。
 
それからも一年に一回程度、「もすこ欲」に襲われることがある。
九州に住んでいた親戚は東京へ越してきてしまったけれど、帰省するたびに買ってきてくれるので、
今のところ「もすこ欲」は抑えられている。
しかし、念のためにとチェックしていた「お取り寄せできる店リスト」の一つからは、その姿を消してしまった。
この地味極まりないお菓子が時の流れに埋もれてしまわないように祈っている。
 
そして今、書き出しよりもなお強まった「もすこ欲」をどうなだめるべきか、思案に暮れている。