啓蟄はまだ

春一番が強引に冬を押しやった。
風のにおいとぽかぽか陽気に酔っ払ったみたいな気分で町を歩いた。
土も空気もあたたまれば、虫も人も動きたくなるのは同じなのかもしれない。
冷たくちぢこまった四肢をおもいきり伸ばせ。
若者たちも親子連れもフォークシンガーも入り乱れる広場で、冷たいコーヒーを飲みながら、かりそめの春を楽しむ。
引っ張られてきた春はまた暫く引っ込んで、行きつ戻りつしながら、来月には本格的にやってくるだろう。
朝の青い空気、ほころぶ桜、まばゆい菜の花、早回しで伸び行く芽、あたたかく甘い風。
まだ先だけれど、もう目前。